出産と問題生徒
産休を終えた30歳を超えたばかりの中学校教師Aさんが久しぶりに教室に入ったとき、日頃から騒いでいたグループが「先生、子供はどうやったらできるのですか」「どこから生まれるのですか」などと言って卑猥な声でからかった。
そこで彼女は腹をくくり、「放課後、ゆっくり話をしてあげるから、希望者は教室に残りなさい」と言って、その場は切り抜けた。放課後に教室に行ってみると、ほかのクラスの問題児まで集まっている。
もう後にはひけないと意を決して真ん中に腰を下ろし、夫と知り合った時のこと、初体験、結婚式のこと、子供を作ろうとした営みなど、包み隠さず話をした。生徒たちは、ニヤニヤしながら聞いている。
ところが、話が妊娠を知ったときの感動、分娩の様子と続いていくうちに、いつしか教室内はシーンと静まりかえっていった。先生の目頭も熱くなっていた。
こうして、ありのままを話した一時間半が終わると、彼らは、
「先生、どうもありがとうございました」と頭を下げて帰っていき、その後、彼女の授業で騒ぐ子供もいなくなった。
下心も虚飾もない、圧倒的な事実と迫力が、子供たちの琴線に触れ変わったのである。
黙って聞け
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野手としては日本人初の大リーガーになったイチロー選手の父親チチローが週刊誌で「一朗は、一度だけ、高校一年の初めに『野球をやめたい』と言い出したことがありましてね」と話していた。その時、父は息子にこう言ったという。
「お前の野球は、ほかの誰とも違う。小さい時から鍛えに鍛えた野球だからな。その野球を、ほかならぬお前がやめようとしているぐらいだから、そりゃよほどのことだろう。どうしてもやめたいと思うなら、やめるしかねえな」
そして、何日か過ぎて「また練習したい、付き合ってよ」と言ってきたので、結局は野球をやめずに続けることになった。そして今日のイチローがいるのだが、「あの時、なんでやめたいと言ったのか、結局聞かずじまいで私は知らないままなのですよ」と父親は笑っている。
いまどきの親なら、「どうしてだ、こんなに苦労してきたのに。そりゃお前の言うことも分からないこともないけれどな、もしここでやめたら、もったいないじゃないか」と言ってしまうかもしれない。その時、その場で、なんとか子供の心を納得させたいと力んでしまいがちだが、力めば力むほど子供の心は荒れるだけである。チチローのように、ただ聞いてやるだけでいい。
目を合わせる順番を変えただけで・・・
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6歳と1歳の子供がいる母親が、「最近、上の子供の様子が少し変で、何となくハキハキしないし、言うことを聞かない」と訴えた。そこで先生が、
「仕事が終わって家に帰ったとき、先にどちらのお子さんの顔を見ますか」
と聞いた。お子さんが二人いる母親ならみな同じだろうと思うが、その母親も必ず下の子を見るとのことだった。そこで先生はアドバイスした。
「今日からは、下のお子さんを先に見たいのを我慢して、まず上のお子さんの顔を見て、目が会ったらにっこり笑ってあげてください。そして、上のお子さんが笑ったら、それから下のお子さんに目を移してください」
その翌々日、お母さんが「驚きました。上の子が下の子の手を引いて歩いてくれたのです。いままで、そんなことしたこともないのに」と涙ぐんで報告されたそうです。
子供には母親の愛情を独占したいという時期があり、この時期に母親の愛情がよそへ向いてしまうことは、子供にとってはとても不安なことなのである。この不安が嫉妬のもとになる。その嫉妬が思春期にふたたび頭をもたげ、いじめや暴力事件などの遠因になる。